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本業の製缶業の傍らベンチャー設立。レーザー技術を学び、次の10年の事業育成。 大建産業株式会社


本業の製缶業の傍らベンチャー設立。レーザー技術を学び、次の10年の事業育成

大建産業株式会社 代表取締役 武田信秀 さん

Profile:鉄鋼の溶接と機械加工を中心に手掛ける大建産業の二代目。偶然知ったレーザー技術に将来の可能性を感じ、2010年に本学に入学。在学中にベンチャー企業D-Laserを設立、2016年3月博士号取得。

大建産業株式会社:静岡県浜松市南区恩地町650番地  TEL. 053-425-3791

■需要減退の苦境から起死回生を狙う

大建産業株式会社
代表取締役 武田信秀 さん

武田さんが光産業創成大学院大学に入学したのは2010年。リーマンショック後の需要減退で浜松地域の製造業が暗いトンネルから抜けられずにいた頃だ。武田さんが社長を務める大建産業も事情は同じ。需要7割減という厳しい状況を打破するため、新しい可能性を摸索するなかで本学に出会った。「途方に暮れていたときに、たまたま市内で開催されていた産業展示会に立ち寄ったのです。そこで目に留まったのが、光産業創成大学院大学が主催するレーザー関連技術のセミナーでした」と武田さんは振り返る。

実は10年ほど前の需要減退期にもレーザー技術に惹かれていたという武田さん。ところが、ほどなく景気は回復。レーザーの世界に踏み込むまでには至らなかった。「でも、今回は待っていても需要は回復しない」と感じた武田さんは、展示会の会場でレーザー技術を本格的に学ぶことを決断した。

「レーザー技術については全くの素人だったのですが、入学してみれば何とかなるものです。何より、学生として大手企業の研究開発部門と技術課題を話し合う日々は刺激になりました。これは本学の学生だからこその特権でしたね。」

入学後に最初に開発したのは「ポータブルピーニング装置」。熔接部を打ち延ばす加工処理をする装置で、大型の専用機はすでに自動車産業などで使われている。これを可搬型にし、汎用的に使いたいというニーズがあることを知り、製品開発に取り組み始めた。実際の製造現場で使用できるレベルに向けて現在も改良を続けている。

本学のネットワークを活用して異分野の商品開発も手掛けた。それが「レーザーレンジ」と名付けた、牛すね肉を柔らかくする調理器具。山形県のイタリア料理店「アル・ケッチャーノ」のオーナーシェフ奥田政行さんとの連携で開発したものだ。レンジのトレーにすね肉をのせ、すじの部分だけにレーザーを照射すると、肉がゼラチン質に変化して柔らかくなる。従来ターゲットとしてきた産業界向けとは全く異なる市場向けの製品であり、レーザー応用の意外性を示した例として各方面から注目を集めている。

■レーザーとの出会いがもたらしたもの

在学中に開発した「レーザーレンジ」

2016年3月に本学を卒業した後もレーザーを活用した武田さんの事業構想は発展を続けている。武田さんの目に映るレーザーは、例えて言えば「わがままで高飛車なじゃじゃ馬娘」のようなもの。最初の印象で武田さんが大きな可能性を感じたように、そのポテンシャルの大きさに魅力を感じる人は多いが、実際は「手懐ける度量を身に付けないと、使いこなすのが難しい」という。「特に、製造現場でレーザーを使った装置を作ろうとするのなら、レーザーに関する知識のない人が、整備されていない環境で使うことを想定しないといけない。かなりハードルの高い開発になる」のだという。逆に言えば、だからこそ、大きな可能性が残された分野であるともいえる。

武田さんが今注力するのは、工業分野のいろいろな問題を解決するレーザーの活用。学生として2つの商品開発を経験し、レーザーを使いこなす度量の片鱗を見定めたこれからが本格的なレーザー活用の段階に入る。

「大学でレーザーに出会えたおかげで、新たな展開へのきっかけが生まれた」と語る武田さん。大学の教授のネットワークやレーザーに関わる人とのコミュニケーションを通して、自社に求められる技術の方向性が浮かび上がってくる。そうして得られた新分野への足掛かりが、武田さんの会社の新展開を支えていくようだ。

「既存事業だけに取り組んでいると、目の前の問題ばかりに気をとられて、後ろ向きの気持ちになることが多い。でも、夢中になれる新しいテーマがあると目標ができて前向きになれる」。社長が未来に向けて突き進む姿は従業員の在り方にも影響する。そんな好循環を生み出すことができたのも、レーザーに取り組もうと決断した武田さんの強い意志があったからこそ、だろう。

指導教員からのメッセージ

経営者の明るさが人の輪(和)を産む 坪井昭彦 副学長

武田さんと私との出会いは、武田さんと大建産業さんの成長、飛躍に向けた新たな挑戦の場を産んだだけではなく、私自身にとっても武田さんはじめ社会人学生諸氏と互いに切磋琢磨しあう新たな生活の第一歩となりました。

武田さんの入学当時、私自身も企業経営者として、リーマンショックの荒波を自らの問題として対処しつつ、大建産業さんの経営課題を武田さんと共に考え、共に処置する…そんな共同生活が始まったのでした。

武田さんとの共同生活を通じて、痛感させられたことがあります。まずは「明るさ」が、企業経営者にとって「必須の資質」であり、それが「人の輪(和)」を産み出す原動力となることだと。

大学で出会われた新たな「人の輪(和)」を大切にされ、武田さんの「新たな挑戦」を通じて、今後、益々の大建産業さんの発展をお祈りします。


進化し続ける武田さんに、期待。 増田靖 教授

武田さんとの出会いは、博士論文指導でした。武田さんは既に坪井先生をはじめとする技術系の先生方と、レーザーを活用した装置や技術を開発していました。事業的にはそれだけで大きな成果ですが、武田さんは博士号の取得も目指しました。

論文指導は約1年半に亘り週1回のペースで進めました。武田さんの執務室を訪問するたびに、机の上に新しい書籍が並んでいました。非常に学習能力の高い方だと思いました。

武田さんは、中小企業が生き残っていくためにはイノベーションを起こし会社を進化させることが必要との思いで、ご自身の実践を振り返りながら論文をまとめました。それが『中小企業を進化させるための中小企業経営者進化論』です。まさに進化し続ける武田さんの真骨頂です。

これからも進化し続ける武田さんに、期待しています。
2017年2月掲載