藤田 和久 教授
光技術の新しい使い方で中小企業のみなさまの新しい発想の実現に一緒に取り組む
これまでの延長線上ではないところに答えを発見
レーザーでさびを取り除くという新しい発想で、昨年来注目を集めている株式会社トヨコー。同社とは、現代表の豊澤氏が「橋梁のさびをレーザーで落としたい」と初めて本学に相談に来られて以来、10年近くのお付き合いになります。この技術、昨年4月、NHKの「サイエンスZERO」とその連動企画である「Yahoo!ニュース特集」に掲載されてから、数百件の問い合わせが続いています。
本学に相談に来られた当初の豊澤氏はレーザーのご使用経験はなく、初めて触れられるものだったようです。しかし経営者の直感で、レーザーを自社の事業に活かす可能性を感じられたのだと思います。そこでまずはパルスレーザーを使った市販のレーザークリーニング装置を使って、錆を落とす実験をしてみたところ、圧倒的にエネルギーが不足していて、実業務として使えるレベルではないことがわかりました。
この問題を乗り越えるため、レーザークリーニングの経験者を訪ね、相談にのっていただきました。ピークパワーを上げる、繰り返しを上げるなどのアドバイスをいただきましたが、現場での使用を考えるとハードルは高まるばかり。そこでこれまでの延長線上ではなく、エネルギーを圧倒的に、かつ安価に供給する方法として、連続波(CW)の利用へと発想を転換しました。
本学に相談に来られた当初の豊澤氏はレーザーのご使用経験はなく、初めて触れられるものだったようです。しかし経営者の直感で、レーザーを自社の事業に活かす可能性を感じられたのだと思います。そこでまずはパルスレーザーを使った市販のレーザークリーニング装置を使って、錆を落とす実験をしてみたところ、圧倒的にエネルギーが不足していて、実業務として使えるレベルではないことがわかりました。
この問題を乗り越えるため、レーザークリーニングの経験者を訪ね、相談にのっていただきました。ピークパワーを上げる、繰り返しを上げるなどのアドバイスをいただきましたが、現場での使用を考えるとハードルは高まるばかり。そこでこれまでの延長線上ではなく、エネルギーを圧倒的に、かつ安価に供給する方法として、連続波(CW)の利用へと発想を転換しました。
当時は、ワークに対する熱影響が大きすぎるという理由でCWは利用されていませんでした。私たちがCWを利用するにあたっても、熱の問題を解決するもう一工夫が必要でした。そこで考え出したのが、レーザーの照射面を高速で回転させる高速スキャンです。
当時、高出力のCWレーザーは主に金属の溶接や切断などに使われるケースが多く、1点にじっと光を当てることで、そのエネルギーが吸収される結果、金属が加熱され、加工ができます。この照射面を回転させれば、ワークの加熱が抑えられ、さびが落とせる程度の適度な温度になるのではと考えたのです。この発想がもとになって独自のスキャン方式を考案し、CWレーザーを用いた高速クリーニングの実現にたどり着きました。
当時、高出力のCWレーザーは主に金属の溶接や切断などに使われるケースが多く、1点にじっと光を当てることで、そのエネルギーが吸収される結果、金属が加熱され、加工ができます。この照射面を回転させれば、ワークの加熱が抑えられ、さびが落とせる程度の適度な温度になるのではと考えたのです。この発想がもとになって独自のスキャン方式を考案し、CWレーザーを用いた高速クリーニングの実現にたどり着きました。
研究者や他の中小企業支援機関とは異なるスタンス
このように、光を用いて中小企業の事業開発を一緒に進める点が、本学の特徴です。私自身も研究者ですのでよくわかるのですが、通常、研究者にはそれぞれの研究分野があり、その分野における新規性に価値が置かれます。ところが中小企業にしてみれば、必ずしも技術的に最先端のものが必要なわけではありません。また本学は光を使ってビジネスのネタをつくり、顧客が喜ぶ仕組みや雇用創出を通して産業界に貢献することを最優先としています。「支援」というより、対等な立場にたつ「共創」のイメージが近く、他の中小企業支援機関とも異なる立場をとります。
一般に、中小企業は資源に特に限りがあります。それに気づかず、私も最初のころは、大学で原理を実証したら、企業に任せればと思っていました。しかし、新技術の定着や発展にも仕掛けがいるものです。福田赳夫元首相の言にならえば「資源有限、人智無限」です。社員の皆様との深いコミュニケーションの中、成長過程で社内から湧き出る新しい発想を専門家の立場から形にしていくことなどを通して、私含めチームで人智を結集していく必要があります。そこには支援という距離感より、ご一緒にという密接な関わり合いがあります。
一般に、中小企業は資源に特に限りがあります。それに気づかず、私も最初のころは、大学で原理を実証したら、企業に任せればと思っていました。しかし、新技術の定着や発展にも仕掛けがいるものです。福田赳夫元首相の言にならえば「資源有限、人智無限」です。社員の皆様との深いコミュニケーションの中、成長過程で社内から湧き出る新しい発想を専門家の立場から形にしていくことなどを通して、私含めチームで人智を結集していく必要があります。そこには支援という距離感より、ご一緒にという密接な関わり合いがあります。
中小企業の経営者や社員、その他関わる人みんなが、技術や事業に楽しんで取り組み、描いた構想が実現し、それによってお客様に喜んでいただく。このサイクルを回していけることが私にとっての一番の喜びです。そしてこの一連の流れを学術の観点からまとめながら伝え、企業が進まれたい方向に進まれるにあたって、本学をうまく使っていただければ、教育機関としての役割も十分に果たしていると思います。光技術の新しい使い方の提供と、一緒にやっていこうというコミュニケーションをセットにして進めることが重要、と。
本学の建学の精神には「シーズとしての新しい光関連の産業技術力と企業経営力との統合・融合、さらには新しい価値を創造する新産業創成を自ら実践することにより、我が国から世界に新しい知の創造を発信し、かつ貢献できる人材を養成」するという一節があります。この精神を行動に落とし込んで実践していくことが私の役割と感じています。
本学の建学の精神には「シーズとしての新しい光関連の産業技術力と企業経営力との統合・融合、さらには新しい価値を創造する新産業創成を自ら実践することにより、我が国から世界に新しい知の創造を発信し、かつ貢献できる人材を養成」するという一節があります。この精神を行動に落とし込んで実践していくことが私の役割と感じています。
企業とのイノベーション事例:インフラ維持管理向けのレーザークリーニング技術の開発
高度成長期から橋の寿命と言われる50年が経ちつつあり、コストから架け替えよりも維持管理が重視されてきています。山谷が多い日本には多くの鉄橋があり、海からの飛んでくる塩分、凍結防止剤の塩分が橋をさびやすくさせています。さびをよく取って再塗装をすることが重要で、現場で使えるその技術が長年待ち望まれていました。
というお話を静岡県富士市にある株式会社トヨコーの豊澤さまよりお聞きし、弊学に入学いただきながら、光加工・プロセス分野の沖原伸一朗先生とともに、用途に合うレーザークリーニング技術を研究開発し、CoolLaser(クーレーザー)システムができあがりました。現在もトヨコーと協力しながら進化が続いています。
というお話を静岡県富士市にある株式会社トヨコーの豊澤さまよりお聞きし、弊学に入学いただきながら、光加工・プロセス分野の沖原伸一朗先生とともに、用途に合うレーザークリーニング技術を研究開発し、CoolLaser(クーレーザー)システムができあがりました。現在もトヨコーと協力しながら進化が続いています。
日本がエネルギーを輸出する:レーザー宇宙太陽光発電
太陽光を集めレーザーに変えて
地上へ送る (JAXA提供)
くもりや夜のない宇宙空間では太陽光エネルギーが地上の約10倍あります。このエネルギーを得て、宇宙から地上へレーザーで送る発電所を2030年から2050年に作るための研究です。
静止軌道の高度3万6千kmから地上までレーザーを正確・安全に効率よく送るため、高精度のレーザー送信装置や大気中でのレーザー透過率の研究を行っています。
地上に届いたレーザー光を電気に変える装置(レーザー光専用の太陽電池のようなもの)の研究も進めています。
静止軌道の高度3万6千kmから地上までレーザーを正確・安全に効率よく送るため、高精度のレーザー送信装置や大気中でのレーザー透過率の研究を行っています。
地上に届いたレーザー光を電気に変える装置(レーザー光専用の太陽電池のようなもの)の研究も進めています。
人と企業、環境をつなぐビジネス情報雑誌「econowa」連載企画
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科学技術の動画専門サイト JSTサイエンスチャンネル
- サイエンスニュース2014 … 実現へ一歩前進!宇宙太陽光発電(2014年5月23日配信)(別ウィンドウで開きます)
リチウムはどこ?:リチウムイオン電池内の分布計測
電極の厚さでリチウム分布が異なる(世界初)。
原研高崎研のTIARA実験によるデータ。
スマホやノートパソコンなどに使われるリチウムイオン電池。性能向上の余地がまだまだあります。なぜなら、充放電時のリチウムイオンの動きが実はよくわかっていないからです。それを直接見る研究をしています。
非破壊検査に良く使われるX線ではリチウムの信号が捉えにくいため、陽子線を当てたときにリチウムイオンが出す光(ガンマ線)を計測する手法を原子力研究開発機構やスペインとの共同研究により進めています。
将来的にはレーザー生成陽子ビームによる観察装置の開発を目指します。
非破壊検査に良く使われるX線ではリチウムの信号が捉えにくいため、陽子線を当てたときにリチウムイオンが出す光(ガンマ線)を計測する手法を原子力研究開発機構やスペインとの共同研究により進めています。
将来的にはレーザー生成陽子ビームによる観察装置の開発を目指します。
省エネ光源で虫を制御する:水稲用発生予察灯の白熱電球代替LED光源の開発
夕暮れせまる水田に設置したLED球による
捕虫試験(滋賀県近江八幡市)
安全・安心で高い品質のお米を生産するため、各都道府県は害虫の発生兆候を生産農家へ速やかに知らせます。
この水稲用発生予察事業では、製造中止となる60Wの白熱電球を水田近くで夜間点灯し、その光で害虫を集めモニタしています。省エネ光源への切り替えを狙った農林水産省の研究において、代替LED光源の研究開発を行っています。
なぜ、どんな光にどのように引き寄せられるのか、虫の専門家、目の専門家ととともに進める代替光源の開発を通して、虫の行動制御の解明とその利用可能性を追求しています。
この水稲用発生予察事業では、製造中止となる60Wの白熱電球を水田近くで夜間点灯し、その光で害虫を集めモニタしています。省エネ光源への切り替えを狙った農林水産省の研究において、代替LED光源の研究開発を行っています。
なぜ、どんな光にどのように引き寄せられるのか、虫の専門家、目の専門家ととともに進める代替光源の開発を通して、虫の行動制御の解明とその利用可能性を追求しています。
キーワード
- レーザー宇宙太陽光発電 レーザー無線エネルギー伝送、大気中のレーザー伝送特性、レーザー光電池、放射線照射
- リチウムイオン電池正極のリチウムイオン分布 粒子線励起ガンマ線放出PIGE、レーザー生成陽子線
- 光による昆虫制御 LED球開発、光による捕虫
- レーザー核融合 X線分光計測、X線画像計測、レーザーと物質の相互作用、高出力レーザー、レーザー光学系
研究業績
論文
松本直哉, 藤田和久, "ターゲット方式レーザー生成希ガスプラズマ光源の点灯性向上," 照明学会誌, 102, 6, 226-233, (2018).
藤田和久,霜田政美, "昆虫の光応答とLEDを用いた光防除技術への応用," 応用物理, 87, 4, 277-281, (2018).
藤田和久, 豊澤一晃, 沖原伸一朗, 前橋伸光, 髙原和弘, 秋吉徹明, "レーザークリーニングによる鋼構造物のメンテナンス," レーザー研究, 45, 7, 418-422, (2017).
藤田和久、沖原伸一朗、豊澤一晃,"CW レーザークリーニングのインフラ維持管理等への応用,"OITDA オプトニューズ,12,2,20-25(2017).
藤田和久,"宇宙太陽光エネルギーの無線伝送,"OPTRONICS,35,415,44-49(2016).
A. Yamazaki,Y. Orikasa, K. Chen, Y. Uchimoto, T. Kamiya, M. Koka, T. Sato, K. Mima, Y. Kato, K. Fujita,"In-situ measurement of the lithium distribution in Li-ion batteries using micro-IBA techniques,"Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms,371,,298-302(2016)
Keiji Morishita, Kazuhisa Fujita, Ryota Kakei, Hiroki Furuki & Tomoyuki Okada,"Carbon nanotube sheets used in field-emission lamps with vacuum-sealed diode structures,"Fullerenes, Nanotubes and Carbon Nanostructures,24,5,293-297(2016)
学会発表
稲垣博光, 移川隆行, 豊澤一晃, 藤田和久, "レーザー塗膜除去技術の原子力プラントへの適用に向けた研究開発 (3)レーザー照射で発生する粉塵処理に関する基礎実験," 日本原子力学会2018年春の年会, (大阪大学吹田キャンパス, 2018/3/27)
藤田和久, 井上俊介[A], 三間圀興, 佐藤隆博[B], 鈴木耕太[C], 山崎明義[D], 神谷富裕[E], 橋田昌樹[A], 阪部周二[A], 吉野和宙[C], 加藤義章, 花山良平, Martin Finsterbusch, "レーザー駆動量子ビームによる 全固体リチウムイオン電池内のリチウムの挙動解析," レーザー学会学術講演会第38回年次⼤会, (京都市勧業館みやこめっせ, 2018/1/24)
沖原伸一朗,豊澤一晃A,藤田和久,奥田和男A, 髙原和弘B,秋吉徹明B,前橋伸光, "CWレーザーによる鋼材腐食部の塩分除去に関する定量評価," レーザー学会学術講演会第38回年次大会, (京都市勧業館みやこめっせ, 2018/1/22)
藤田和久, "レーザークリーニングによる鋼構造物メンテナンス," レーザー応用技術 産学官連携成果報告会(平成29年度), (福井県敦賀市アクアトム, 2017/11/22)
藤田和久, "固体リチウムイオン電池正極内における陽子ビーム誘起を用いたリチウムイオン分布観測," 2017年 宇宙用電源および関連技術連絡会, (かんぽの宿浜名湖三ヶ日, 浜松市, 2017/10/3)
藤田和久, "社会人学生による光技術を用いた起業及び新事業開発," 2017年 宇宙用電源および関連技術連絡会, (かんぽの宿浜名湖三ヶ日, 浜松市 , 2017/10/3)
藤田和久, 奥田和男,"「鋼橋等、光技術による塗装除去手法」に関する新技術研究," 建設イノベーション推進機構設立記念講演 北海道の産業遺産に学ぶ技術とその今日的意義, (札幌, 2017/7/7)
松下正和, 天野真志, 内田俊秀, 藤田和久, 酒井浩一, 吉川圭太, 古田雅一, "和紙に発生したカビの放射線殺菌に関する研究," 文化財保存修復学会第39回大会, (金沢歌劇座, 2017/7/2)
Kazuhisa Fujita, Shin-ichiro Okihara, Kazuaki Toyosawa, Kazuhiro Takahara, Toyohiko Hongo, Tetsuaki Akiyoshi, Nobumitsu Maebashi, and Hiromitsu Inagaki, "Laser cleaning system using a kW-class fiber laser for maintenance of social infrastructures," Laser Solution for Space and the Earth 2017, OPTICS & PHOTONICS International Congress., (PACIFICO YOKOHAMA, Yokohama, Japan, 2017/5/19)
松比良邦彦, 尾松直志, 藤田和久, 屋良一寿, 屋良武信, 平江雅宏, "緑色LED光源のライトトラップによるイネウンカ・ヨコバイに対する誘引特性," 九州病害虫研究会 第93回研究発表会, (菊南温泉ユウベルホテル,熊本市, 2017/2/2)
藤田和久,沖原伸一朗,豊澤一晃,前橋伸光,髙原和弘,秋吉徹明,鈴木猛,黒柳昭博,稲垣博光, "レーザークリーニングの鋼構造物メンテナンス等への応用," レーザー学会学術講演会第37回年次大会 シンポジウム 電力・公共インフラの維持・保全に向けたレーザー利用, (徳島大学, 2017/1/7)
報道
「日本のインフラ老朽化の危機を救うべく開発されたレーザー技術」NHK『サイエンスZERO「カガクの“カ”」』(2018/4/15)
「レーザー照射で鋼材の塗膜除去」日本経済新聞静岡経済版『わが社の一押し』(2016/3/4)
「「技術王国の誇りを繋げ!しずおかオンリーワン企業」」SBSテレビ(静岡ローカル)「静岡発そこ知り」(2016/2/22)
「「レーザー照射による構造物鋼材表面処理の評価基準」制定に向け「新市場創造型標準化制度」活用による国内標準化を日本工業標準調査会が承認」日本経済新聞、中日新聞、日刊工業新聞、静岡新聞(2016/1/29)
「光って何?特性を学ぶ湖西で発明クラブ講座 プリズムなどで実験」中日新聞(2010/12/12)
「光の屈折や「分光」に驚き 湖西市少年少女発明クラブ プリズム使い特性学ぶ」静岡新聞(2010/12/12)
「未来を照らす環境ビジネス宇宙からの伝送 太陽光発電の未来はレーザーとともに」(2009/10/5)
関連リンク
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株式会社トヨコーホームページ
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2018/4/13配信 取材・文=NHKサイエンスZERO「#カガクの“カ”」取材班/編集=Yahoo!ニュース 特集編集部
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2018/6/22配信
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塗装業の限界を感じて、レーザーの世界へ。レーザーによる表面処理の標準化に挑む。